学習障害(LD)とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはありませんが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものです。
その原因として中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されますが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではありません。
学習障害(LD)には、読字障害(ディスレクシア)、書字表出障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)などさまざまなタイプがあり、また人によって症状の現れ方も違うので、診断が難しい障害でもあります。
学習障害のある人の中でも文章を構成するのが得意な人もいれば、算数が得意な人もいます。
もくじ
学習障害の種類
- 読字障害(ディスレクシア)/読みの困難
- 書字表出障害(ディスグラフィア)/書きの困難
- 算数障害(ディスカリキュリア)/算数、推論の困難
の3つに分類されます。
苦手分野以外の知的能力に問題が見られないことが多いため、学習障害は発達障害の中でも判断が難しい種類の障害です。
読み書きや計算能力は、ほとんどの子どもが就学前には学んでいません。
そのため、本格的な学習に入るまで判断が難しく、障害に気づかないことも少なくありません。
中にはその人の学習困難が発達障害によるものではなく単なる苦手分野だと判断され、大人になるまで気づかれないことも多くあります。
学習障害の人は「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」という5つの能力の全てに必ず困難があるというわけではなく、一部の能力だけに困難がある場合が多いです。
読む能力はあっても書くのが苦手、他の教科は問題ないのに数学だけは理解ができないなど、ある特定分野に偏りが見られます。
また、同じ「読む」ことの障害でも、ひらがなは問題なくても漢字が苦手など、その状態はさまざまです。
一方、読字と書字の障害など、複数が併せて現れる場合も多く見られます。
学習障害の大分類「読字障害」「書字障害」「算数障害」の特徴
それぞれの学習障害の人に見られる主な特徴を紹介しますが、学習障害の特徴は人それぞれであり、同じ障害に分類されていても、その中の全ての特徴があてはまるわけではありません。
また、他の発達障害がある人は、その特徴が合わさって出ることもあります。
読字障害・読みの困難(ディスレクシア)
読む能力に困難がある読字障害は、学習障害と診断された人の中で一番多く見られる症状であり、別名でディスレクシア(dyslexia)と呼びます。
欧米では約10~20%の人がこの症状があると言われています。
ディスレクシアは、ギリシャ語で「読むのが困難」という意味です。
読字障害があると、結果として文字を書くことにも困難を感じる場合が多いため、読み書き障害と呼ばれることもあります。
読字障害の人の中には「見た文字を音にするのが苦手」という症状があります。
その原因は、情報を伝達し処理する脳の機能がスムーズに働いていないことだと考えられています。
文字の見え方にも特徴があり、文字がぼやける、黒いかたまりになっている、逆さまに見える、図形に見えるなど違った見え方になってしまい、認知の仕方が異なります。
また音韻認識が弱く、ひらがなやカタカナのひとつずつは理解していても、漢字(単語)になると理解できなくなってしまうこともあります。
漢字の音読みと訓読みの使い分けができなかったり、単語や文節の途中で区切った読み方をするなど、変わった読み方をしてしまいます。
読字障害の特徴
- 形態の似た字である「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」などを理解できない。
- 小さい文字「っ」「ゃ」「ょ」を認識できない。
- 文章を読んでいると、どこを読んでいるのかわからなくなる。
- 飛ばし読み、適当読みをするなど文章をスムーズに読めず、読み方に特徴がある。
- 音声にするなど耳から情報は理解しやすい場合が多い。
- など
書字表出障害・書きの困難(ディスグラフィア)
「文字が書けない」「書いてある文字を写せない」などの書く能力に困難がある学習障害を書字障害・ディスグラフィア(dysgraphia)と呼びます。
文字が読めるのにもかかわらず書けない場合も書字障害に分類されます。
書字障害の人は、自分では文字を正確に書いているつもりなのに鏡文字になってしまうなど、文字を書くという動作が苦手です。
原因としては、脳内で身体に指示を出し手を動かすという伝達機能がうまくいっていないからだという説が有力です。
そのため、文字が書けなかったり、文字を書く速度が遅くなってしまうのです。
書字障害の特徴
- 鏡文字や雰囲気で「勝手文字」を書く。
- 誤字脱字や書き順の間違いが多い。
- 黒板やプリントの字が書き写せない、時間がかかる。
- 漢字が苦手で、覚えられない。
- 文字の形や大きさがバラバラになったり、マス目からはみ出したりする。
- など
算数障害・算数、推論の困難(ディスカリキュリア)
数字や数式の扱いや、考えて答えにたどり着く推論が苦手な学習障害を算数障害・ディスカリキュリア(dyscalculia)と呼びます。
数字に関する能力にのみ障害がある人が多いため、算数の学習を始めてから発見される場合がほとんどです。
「1」「2」「3」などの基本的な数字や、「x」「+」などの計算式で使う記号を認識することに困難をもっています。
算数障害の人は数字そのものの概念、規則性、推論が必要な図形の領域を認識するのが難しいです。
また、視覚認知の機能が弱く、数字を揃えて書く、バランスを考える、文字間の距離感を取るなどが苦手です。
そのため、筆算を書く際に桁がずれることも多くなります。
算数障害の特徴
- 簡単な数字、記号を理解しにくい。
- 繰り上げ、繰り下げができない。
- 数の大きい、小さいがよく分からない。
- 文章問題が苦手、理解できない。
- 図形やグラフが苦手、理解できない。
- など
年齢別に見た学習障害の症状の現れ方
学習障害は、本格的な学習に入る小学生頃まで判断が難しい障害です。
子どもの成長速度は人それぞれ。「なかなか歩かない」「全然しゃべらない」といった子どもの行動の一つ一つは気になりますが、ただ成長がゆっくりである可能性もあります。
学習障害の人の中にはADHDや自閉症などの他の発達障害の合併症状を持っている人も多く、その場合は、乳幼児期に特徴があらわれる場合もありますが、合併が無い場合は、この時期にはっきりと判断をするのは難しいと言えます。
ある程度知能が育ち、行動に特徴が現れやすい学習を始める小学生頃にならないと、学習障害とは判断しにくいです。
特に乳児期は学習障害の特徴は見分けにくいといえます。
他の発達障害の特徴として、抱っこされるのを嫌がる、視線を合わせない、言葉を真似する行為が見られないなどの症状がみられるなど、他の発達障害の症状を目安にし、学習障害の確実な診断は学習を始める年齢以降にするしかありません。
以下では年齢別に見られる学習障害の特徴を紹介します。
幼児期の目安もあくまで他の発達障害を合併している場合です。
幼児(1歳~小学校就学)
就学前なので学習障害の特徴はまだ現れにくいですが、この頃から子どもは言葉を話し始めたり、学習を始めます。
少しずつ学習障害の子の多くが持つ特徴が見えてきます。
幼児の学習障害の特徴
- 言葉、文字を覚えるのが遅い。
- 折り紙が折れない、ボタンがとめられないなど手先が不器用。
- 身体の使い方がぎこちない。
- など
小学生(6歳~12歳)
小学生になると本格的に学習が始まります。
勉強において特定の科目が苦手な場合や読み書きに困難がある場合、学習障害の可能性があります。
同年代の子どもと比べて学習の習得が著しく遅い場合、学校の先生や専門機関で相談してみることをおすすめします。
ここからは就学期に入るため、「読字障害」「書字障害」「算数障害」ごとに特徴を分けて書いていきます。
小学生の学習障害の特徴
- 授業を真面目に聞いていても勉強が苦手、ついていけない。
- など
読字障害 |
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書字障害 |
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算数障害 |
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中高生(12歳~18歳)
中高生になるとはっきりと学習能力の偏りが見えてきます。
何かの能力が極端に低い場合には、単なるなまけや得意・不得意だとは判断せず、学習障害である可能性も考えましょう。
英語の学習が始まると、国語にはあまり不自由しなかった子どもも、英単語の読み書きなどに極端に困難さを感じる場合もあります。
中高生の学習障害の特徴
読字障害 |
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書字障害 |
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算数障害 |
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成人期(18歳~)
最近では、大人になってから学習障害だと診断される人も少なくありません。
もし大人になってから様々な学習困難に直面したら、学習障害以外の発達障害との合併症を持っている可能性も考えられます。
成人の学習障害の特徴
- 上司の注意を聞いてもうまく理解できず同じ失敗をする。
- 電話で聞きながらメモを取れない。
- 話がうまくまとめられず企画案を作成できない。
- 集団で指示されるのが苦手で会議で辛い思いをする。
- レポートが書けない。
- お釣りの計算や金銭管理ができない。
- など
学習障害の特徴チェック
学習障害を早期発見することで子どものやる気の低下、自信喪失などの二次障害を避けることができます。
参考までに「読字障害」「書字障害」「算数障害」ごとの特徴を以下に記載します。特徴が当てはまるかチェックをしてみてください。
チェックする大切なポイントは「年齢に見合った動きができているか」です。
年齢相応の習得の度合いと比較してチェックしてください。
また、これはあくまで学習障害の可能性があるかどうかという参考程度のチェックリストですので、多く当てはまる場合は、診断を受けることをおすすめします。
読字障害
1 | 漢字の訓読みと音読みを使い分けるのを苦手とするように見受けられる。 |
2 | 単語の単位をつかむのを苦手とする。 一文字ずつ読んでしまい、まとまりのない読み方をすることが多い。 |
3 | 文字や行を飛ばして読むことが多い。 |
4 | 特殊音節(拗音・長音・促音)であらわされる文字を発音できない。 |
書字障害
1 | 漢字を書く際に、鏡文字を書くことが多い。 |
2 | 文字を書く際に、余分に線や点を書いてしまうことが多い。 |
3 | 年相応の漢字を書くことができないことが多い。 |
4 | 間違った助詞を使ってしまうことが多い。 |
5 | 文字の大きさや形がバラバラ・マス目からはみ出る。 |
読字・書字障害の合併(読み書き障害)
1 | 上記の読字・書字障害のチェック項目に当てはまるものが多い。 |
2 | ひらがなの読み書きを苦手とする。 例えば「ね」「れ」「わ」が一緒に見えてしまうように見受けられる。 |
3 | カタカナの読み書きを苦手とする。 例えば「ソ」「ン」、「シ」「ツ」が一緒に見えてしまうように見受けられる。 |
4 | 特殊音節(拗音・長音・促音)の読み書きを苦手とすることが多い。 |
算数障害
1 | 数を覚えるのに時間がかかることが多い。 |
2 | 数の大小の概念を理解できていないように見受けられる。 |
3 | 九九を習得している年齢なのにも関わらず、九九を覚えられていない。 九九を暗記しても計算に応用できない。 |
4 | 繰り上がり繰り下がりの筆算ができないことが多い |
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